歴史
十返舎一九
日本で唯一。ここにしかない一九の句碑
『東海道中膝栗毛』といえば、弥次さん、喜多さんを主人公にしたおなじみの滑稽本。「お伊勢参り」などの当時の旅行ブームを題材にしたものです。
20年に渡り大ベストセラーになり、各宿場の名所、風土の味も織り込まれ、ガイドブックとしての役割も果たしました。
この十返舎一九、実は府中(静岡市両替町)の生まれで、駿河には
「スズメは鈴屋の鈴鳴らし、カラスは鍛冶屋で金たたき、
とんびはとろろのお師匠さん」
という童唄があります。
真っ黒くなって働く鍛冶屋はカラスに任せ、とろろは大空をゆっくりと輪を描いて飛ぶとんびのように擂粉木をまわすと美味しくできますよ、という意味です。
この唄を知っていた一九は、『東海道中膝栗毛』の作中にある「丸子」のシーンをこんなふうに描いています。
忙しさのあまり夫婦喧嘩しながら作るまずいとろろをお客に食べてもらう訳にはいかぬと、庭にぶちまけてしまう。
結局食べずじまいで、とんだ災難にあった主人公の弥次喜多は、空腹を抱えたまま狂歌を残す。
「けんかする 夫婦は口を とがらして
とんびとろろに すべりこそすれ」
とろろ作りの師匠であるとんびも、夫婦喧嘩で撒き散らされたとろろに、すってんころりん。というわけ。
自身も幼い日に口ずさんだであろうこの童唄を引き合いに出すあたりは、さすがは郷土が生んだユーモア作家と、とても興味深いものがあります。